「鉄騎兵、跳んだ」
“こいつは鉄の暴れ馬に跨がるロデオだ!”
1980年8月10日 文藝春秋
1986年5月15日 徳間文庫
2010年5月10日 文春文庫
◯「鉄騎兵、跳んだ」
◯「246グランプリ」
◯「パッシング・ポイント」
◯「ロウアウト」
◯「雪辱戦」
◯「スコアブック」
今や、冒険小説・歴史小説・警察小説で名高い直木賞作家・佐々木譲さんのデビュー作です。本田技研在籍中に執筆し、第55回オール読物新人賞を受賞した作品です。
6編の短編で構成されています。
◯「鉄騎兵、跳んだ」
表題作は、モトクロスを題材にしたバイク小説。モトクロスに人生のすべてを賭ける貞二は、23歳まで3年かかってもシニアレースに上がれないでいる。また、突如現れた新人天才ライダー・根本の出現に焦りを覚える。愛する洋子の目を自分に向けさせるためにも、引退を決意して最後のレースに臨む…!
まず感じるのが、佐々木譲さんの“バイク愛”。本田技研にいらしたこともあり、以後の作品にも多くのバイクが登場します。佐々木さん曰く、「バイクそのものではなく、バイクを取り巻く人々のことを描きたい」。
まさにこの小説も、バイクそのものよりも、バイクを愛する人たちの物語です。
何より引き立つのはヒロイン・洋子の存在。
焦る貞二の横で、新人ライダー根本のことを誉めちぎりながらも、「貞二は貞二でしょ」「貞二はまるで鉄騎兵みたいね」と、貞二への想いもしっかりと伝えてくれる。
さぁ、貞二の最後の勝負の決着はいかに!?
“勝ち負け”を超えるものが、ゴールラインで待っています!
この他の短編も、多くはバイク(または車)を題材にした物語。唯一、文春文庫には収録されなかった「スコアブック」は、バイク小説ではありませんが、どの短編も(佐々木さんの短編はいつもそうですが)爽やかな、時には切ない読後感に包まれます。
直木賞作家・佐々木譲さんの原点となる作品を、一度読んでみてはいかがでしょうか?
追記
「鉄騎兵、跳んだ」は、1980年ににっかつ劇場用映画として、石田純一さん主演で映画化されています。残念ながらDVD化はされておらず、VHSのみとなっています。